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おに

鬼

江戸川 乱歩

「キング」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年11月、1932(昭和7)年1月~2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,138 字 · 60 页

青空文庫

程の、物凄い鉄道綺譚を貯えていた。

「君、昨夜はNの町へ行ったんだってね。帰りはおそくなったの?」

殿村が何ぜか遠慮勝ちに尋ねた。道は薄暗い森の下に這入っていた。

「ウン、少し……」

大宅は痛い所へ触られた様に、ビクッとして、併し強て何気ない体を装った。

「僕は十二時頃まで、君のお母さんの話を聞いていた。お母さん心配していたぜ」

「ウン、自動車がなくってね。テクテク歩いて来たものだから」

大宅が弁解がましく答えた。

N市とS村を聯絡するたった一台のボロ乗合自動車は、夜十時を過ぎると運転手が帰ってしまうし、N市といっても山国の小都会のことだから、営業自動車は四五台しかなく、それが出払ってしまうと、外に交通機関とてもないのだ。

「道理で顔色がよくないよ。寝不足なんだろう」

「ウン、イヤ、それ程でもないよ」

大宅は、事実異様に青ざめた頬を、手の平でさすりながら、照れ隠しの様に笑って見せた。

殿村は大方の事情を知っていた。大宅はれっきとした同村の素封家の許婚の娘を嫌って、N市に住む秘密の恋人と媾曳を続けているのだ。その恋人は大宅の母親の言葉によると、「どこの馬の骨だか分らない、渡り者のあばずれ娘」