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おに

鬼

江戸川 乱歩

「キング」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年11月、1932(昭和7)年1月~2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,138 字 · 60 页

青空文庫

と妙な顔をする。

「サア、そこだよ。そこに非常な錯誤があるのだ。犯人のずば抜けたトリックがあるのだ。君は犯人を大宅幸吉と極めてかかっている。それが間違いだ。君は被害者を山北鶴子と極めてかかっている。そこに重大な錯誤があるのだ。被害者も犯人も、君達には少しも分っていないのだ」

殿村が奇怪千万なことを云い出した。

「エ、エ、何だって?」

国枝氏は飛上らんばかりに驚いて叫んだ。

「被害者が山北鶴子ではないって? じゃ一体誰が殺されたのだ」

「あの死骸は犬に食い荒される以前、恐らく顔面を滅茶滅茶に傷つけてあったに違いない。そうして人相を分らなくした死骸に、鶴子の着物や装身具をつけて、あすこへ捨てて置いたのだ」

「だが君、それじゃ鶴子の行方不明をどう解釈すればいいのだ。田舎娘が親に無断で、三日も四日も帰らないなんて、常識では考えられないことだ」

「鶴子さんは絶対に家に帰る訳には行かなかったのだ。僕はね、大宅君から聞いているのだが、鶴子さんは非常な探偵小説好きで、英米の犯罪学の書物まで集めていたそうだ。僕の小説なんかも残らず読んでいたそうだ。あの人は君が考えている様な、単純な田舎娘ではないのだよ」