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とびとかきととり

鳶と柿と鶏

豊島 与志雄

「知性」1939(昭和14)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,493 字 · 21 页

青空文庫

九月のなかばすぎになると、海の水は冷たくて、身体にいけませんね。それで、水泳より山にいって、栗を取る方が面白くなり、木登りは上手になりました。」

「木登りも、その、野心の一つかい。」

「あとで、そうなりました。」

そして李も笑ったが、ふいに、うまい柿を御馳走するし、紹介する人もあるから、是非ついて来いと云い出した。

「柿はいいが、紹介の方は許してくれよ。僕は仕事に来てるんだからね。」

「ええ、分っています。綺麗な女の人ですよ。先生に逢いたがっていました。」

独りで勝手に呑みこんでいるのである。吉村と其他で逢ったのはその日が初めてだし、逢いたがってるもないものだ、恐らくは李が好きな女ででもあろうかと、吉村はすぐに小説家らしい想像をしながら、苦笑をもらした。

半農半漁の人家の聚落の間をぬけて、もはやどこもひっそりとしてる別荘地の方へはいり、その出外れ近いところで、李は足を止めて云った。

「ちょっと待って下さい。……困ったなあ。」

「どうしたんだい。」

「先生、裏からはいるんですよ。」

「同じじゃないか。別荘なら、裏も表も大してちがやしないよ。」

「そうだった。全くそうです。