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しぎつき

鴫突き

寺田 寅彦

「野鳥 第一巻第八号」1934(昭和9)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,330 字 · 5 页

青空文庫

そうしてじっと蹲ったままで可愛い首を動かして自分のまわりをぐるぐる廻って行く不思議な人影を眺めているようである。その人間の廻転する円の半径がだんだん小さくなるに従って、鳥から見たそれの角速度は半径と逆比例して急激に増大して来るのであるから、鳥の注意と緊張もそれに応じて急激にしかし連続的加速度的に増大を要求されるであろう。そういう、鳥にとってはおそらく生れて以来かつて経験した事のない異常な官能行使の要求に応じるに忙しくて、身に迫る危険を自覚し、そうして逃走の第一歩を踏出すだけの余裕もきっかけもないのであろう。ともかくも運命の環は急加速度で縮まって行って、いよいよ矢頃はよしという瞬間に、要太の突き出した叉手網はほとんど水平に空を切って飛んで行く。同時にばたばたと飛び立った胸黒はちょうど真上に覆いかかった網の真唯中に衝突した、と思うともう網と一緒にばさりと刈田の上に落ちかかって、哀れな罪なき囚人はもはや絶体絶命の無効な努力で羽搏いているのである。飛ぶがごとく駈け寄った要太の一と捻りに、この小さな生命はもう超四次元の世界の彼方に消えてしまったのであった。