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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

「冗談じゃないよ、君の方でしたくせに。先刻僕に訊ねた(一)・(二)・(五)の質問を忘れたのかい。それに、あのリシュリュウみたいな実権者は、不浄役人どもに黒死館の心臓を窺わせまいとしている。だからさ、あの男が鎮静注射から醒めた時が、事によるとこの事件の解決かもしれないのだよ」

法水は相変らず茫漠たるものを仄めかしただけで、それから鍵孔に湯を注ぎ込み、実験の準備をしてから、演奏台のある階下の礼拝堂に赴いた。広間を横切ると、楽の音は十字架と楯形の浮彫のついた大扉の彼方に迫っていた。扉の前には一人の召使が立っていて、法水がその扉を細目に開くと、冷やりとした、だが広い空間を佗しげに揺れている、寛闊な空気に触れた。それは、重量的な荘厳なもののみが持つ、不思議な魅力だった。礼拝堂の中には、褐い蒸気の微粒がいっぱいに立ち罩めていて、その靄のような暗さの中で、弱い平穏な光線が、どこか鈍い夢のような形で漂うている。その光は聖壇の蝋燭から来ているのであって、三稜形をした大燭台の前には乳香が燻かれ、その烟と光とは、火箭のように林立している小円柱を沿上って行って、頭上はるか扇形に集束されている穹窿の辺にまで達していた。