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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

その時は、脳質が圧迫されるので、窒息に類した徴候が表われるそうだよ。しかし、これほど顕著なものじゃない。だいたいこの死体のは、そういった頓死的なものではないのだよ。じわじわと迫っていったのだ。だから、むしろ直接死因には、咽輪の方に意味がありそうじゃないか。無論気管を潰すというほどじゃないが、相当頸部の大血管は圧迫されている。すると、易介がなぜ悲鳴を上げなかったか――判るような気がするじゃないか」

「フム、と云うと」

「いや、結果は充血でなくて、反対に脳貧血を起すのだよ。おまけに、グリージンゲルという人は、それに癲癇様の痙攣を伴うとも云っているんだ」と法水はなにげなさそうに答えたけれども、なにやら逆説に悩んでいるらしく、苦渋な暗い影が現われていた。熊城は結論を云った。

「とにかく、切創が死因に関係ないとすると、この犯行は、恐らく異常心理の産物だろう」

「いやどうして」と法水は強く頸を振って、「この事件の犯人ほど冷血な人間が、どうして打算以外に、自分の興味だけで動くもんか」

それから、指紋や血滴の調査を始めたが、それには、いっこう収穫はなかった。わけても甲冑の内部以外には、一滴のものすら発見されなかったのである。