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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
「いやそれ以上さ。だいたい、楽器の心霊演奏は必ずしも例に乏しい事じゃない。シュレーダーの『生体磁気説』一冊にすら、二十に近い引例が挙げられている。しかし、問題は音の変化なのだ。ところがさしもの聖オリゲネスさえ嘆称を惜しまなかったと云う、千古の大魔術師――亜歴山府のアンティオクスでさえも、水風琴の遠隔演奏はしたと云うけれど、その音調についてはいっこうに記されていない。また、例のアルベルツス・マグヌス(十三世紀の末、エールブルグのドミニク僧団にいた高僧。錬金魔法師の声名高しといえども、通性論哲学者であり、かつまた中世著名の物理学者ことに心霊術士としては古今無双ならんと云わる。)が携帯用風琴で行った時も同じ事なんだ。それから近世になって、伊太利の大霊媒ユーザピア・パラルディノが、金網の中に入れた手風琴を動かしたけれども、肝腎の音色については、狂学者フラマリオンすら語るところがないのだ。つまり、心霊現象でさえ、時間空間には君臨することが出来ても、物質構造だけにはなんらの力も及ばないことが判るだろう。ところが熊城君、その物質構成の大法則が、小気味よく顛覆を遂げているんだ。