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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

ああ、なんという恐ろしい奴だろう。風精――空気と音の妖精――やつは鐘を叩いて逃げてしまったのだ」

結局倍音についての法水の推断は、明確と人間思惟創造の限界を劃したに止まっていた。しかし、犯人は、それすらあっけなく踏み越えて、誰しも夢にも信じられなかったところの、超心霊的な奇蹟をなし遂げているのだ。それであるからして、紛乱した網を辛っと跳ね退けたかと思うと、眼前の壁はすでに雲を貫いている。そうなると、伸子の陳述にも、さした期待が持てなくなったことは云うまでもないが、別して法水が顕示した、不思議な倍音に達する二つの道にも、万が一の僥倖を思わせるのみのことで、早くも忘れ去られようとするほどの心細さだった。やがて、鐘鳴器室を出てダンネベルグ夫人の室に戻ると、夫人の死体は、既に解剖のため運び去られていて、その陰気な室の中には、先刻家族の動静調査を命じておいた、一人の私服が、ポツネンと待っていた。傭人の口から吐かせた調査の結果は、次のとおりだった。

降矢木旗太郎。正午昼食後、他の家族三人と広間にて会談し、一時五十分経文歌の合図とともに打ちそろって礼拝堂に赴き、鎮魂楽の演奏をなし、二時三十五分、礼拝堂を他の三人とともに出て自室に入る。