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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

続いて、昨夜神意審問会が行われた室を調べることになったが、そこは、この館には稀らしい無装飾の室で、確かに最初は、算哲の実験室として設計されたものに相違なかった。広さの割合に窓が少なく、室の周囲は鉛の壁になっていて、床の混凝土の上には、昨夜の集会だけに使ったものと見え、安手の絨毯が敷かれてあった。なお、庭に面した側には窓が一つしかなく、それ以外には、左隅の壁上に、換気筒の丸い孔が、ポツリと一つ空いているにすぎなかった。そして、周壁を一面に黒幕で張り繞らしてあるので、たださえ陰気な室がいっそう薄暗くなってしまって、そこには、とうてい動かし難い沈鬱な空気が漂っているのだった。涸れ萎びた栄光の手の一本一本の指の上に、死体蝋燭を差して、それが、懶気な音を立てて点りはじめた時の――あの物凄い幻像が、未だに弱い微かな光線となって、この室のどこかに残っているかのように思われた。その室を一巡してから、法水は左隣りの空室に行った。そこは、昨夜易介が神意審問会の最中に人影を見たと云う、張出縁のある室だった。その室は、広さも構造もほとんど前室と同じであったが、ただ窓が四つもあるので、室の中は比較的明るかった。