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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

葉摺れの噪音に入り交って、微かに、軽く触れた三角錘のような澄んだ音が聞えるのだけれども、その音はまさしく、七葉樹で囲まれていて、そこには何ものもないと思われていた、裏庭の遙か右端の方から響いて来るのだった。しかし、それは神経の病的作用でもなく、勿論妖しい瘴気の所業であり得よう道理はない。すでに法水は、墓※の所在を知っていたのである。

「先刻窓越しに、太い椈の柱を二本見たので、それが棺駐門であるのを知ったのだよ。いずれ、ダンネベルグ夫人の柩がその下で停るとき、頭上の鐘が鳴らされるだろう。けれども、それ以前に僕は、他の意味であの墓※を訪れねばならないのだ。何故なら、あの+の記号――ディグスビイが楽想を無視してまで、暗示しなければならなかったものが何であるか。それを知るには、あの墓※と鐘楼の十二宮以外にはないように思われるからなんだよ」

それから裏庭へ出るまでに、雪はやや繁くなってきたので、急いで足跡の調査を終らねばならなかった。まず法水は、左右から歩み寄って来た二条の足跡が合致している点に立って、そこから、左方にかけての一つを追いはじめた。そこはちょうど、死霊が動いていたと云われる張出縁の真下に当っているのだが、なおその附近に、もう一つ顕著な状況が残っていた。