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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

第四篇 詩と甲胄と幻影造型

一、古代時計室へ

「冗談じゃない」法水は道化たようななにげない身振をしたが、その顔にはいつもの幻滅的な憂鬱が一掃されていた。

「どうして、僕の心理表出摸索劇は終ったけれども、あれは歴史的な葛藤さ。ところが、僕が引っ組んだのは、あの三人じゃないのだ。ミュンスターベルヒなんだ。やはり、あいつは大莫迦野郎だったよ」

そこへ、警視庁鑑識医師の乙骨耕安が入って来た。

第四篇 詩と甲胄と幻影造型

一、古代時計室へ

伸子の診察を終って入って来た乙骨医師は、五十をよほど越えた老人で、ヒョロリと瘠せこけて蟷螂のような顔をしているが、ギロギロ光る眼と、一種気骨めいた禿げ方とが印象的である。が、庁内きっての老練家だったし、ことに毒物鑑識にかけては、その方面の著述を五、六種持っているというほどで、無論法水とも充分熟知の間柄だった。彼は座につくと無遠慮に莨を要求して、一口甘そうに吸い込むと云った。

「さて法水君、僕の心像鏡的証明法は、遺憾ながら知覚喪失だ。だいたい廻転椅子がどうだろうがこうだろうが、結局あの蒼白く透き通った歯齦を見ただけで、僕は辞表を賭けてもいいと思う。まさしく単純失神と断言して差支えないのだ。