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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

ダンネベルグ夫人……易介……そうして三度目は?」

そう云って法水は、しばらく相手を正視していたが、真斎の顔は、しだいに朦朧とした絶望の色に包まれていった。法水は続けて、

「それから僕は、その『ゴンザーゴ殺し』の三たびを再び俎上に載せて、今度は反対に、下降して行く曲線として観察したのです。そして、いよいよその一語に、供述の心理を徹頭徹尾支配している、恐ろしい力があるのを確かめることが出来ました。そのために、ポープの『髪盗み』の中で一番道化ている、異常に空想が働き、男自ら妊れるものと信ずるならん――を引き出して、毫も心中策謀のないのを、貴方に仄めかしたのです。ところが、その次句の、処女は壺になったと思い、三たび声を上げて栓を探す――で答えた貴方は、その中に thrice という字があるのをほとんど意識しないかのように、平然としかも、きわめて本格的な朗誦法で口にしているではありませんか。勿論それは、弛緩した心理状態にありがちな盲点現象です。さらに、前後の二つを対比してみると、同じ thrice 一字でも、『ゴンザーゴ殺し』に現われているのと『髪盗み』のそれとでは、心理的影響において、いちじるしい差異があるのを測ることが出来たのでした。