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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

何故に犯人が、津多子夫人の自由を奪って拘禁したか――という事なんだ。あるいは僕の思い過しかもしれないがね。そういう手段を採るに至った陰険な企みと云うのが、もしかしたら、意識が恢復してから吐かれる、言葉の中にあるのではないかと思われるんだよ。どうして、破れ目がありそうだと、そこにはきまって陥穽があるんだから」

真斎は法水の驚くべき曝露に遇ったせいか、この十分ばかりの間に、見違えるほど憔悴してしまった。力のない手附で、四輪車を操りながら、何か云い出そうとして哀願的な素振をすると、

「判ってますよ田郷さん」と法水は軽く抑えて、「貴方の採った処置については、僕の方から、熊城君によろしく頼んでおきましょう。ところで、押鐘津多子夫人の姿が見えなくなったのは、昨夜何時頃でしたか」

「それが、大分遅くなってからでしてな。なにしろ、神意審問会に欠席されたので、その折初めて気がついたのですよ」と真斎はようやく安堵の色を現わして云った。「ちょうど夕刻の六時頃に、御夫君の押鐘博士から電話が掛ってまいりました。そして、昨夜九時の急行で、九大の神経学会に行くとかいう旨を伝えられたそうですが、その時召使の一人が、津多子様が電話室からお出になったのを見たのみで、それなり、吾々の眼には触れなくなってしまわれたのです。