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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

つまり、明滅する光で垂直に瞼を撫で下す。それを眩惑操作と云って、催眠中の婦人に閉目させる、リエジョアの手法なんだよ。だから、瞼が閉じられると同時に、蝋質撓拗性そっくりに筋識を喪った身体が、たちまち重心を失って、その場去らず塑像のように背後に倒れたのだ。そして、その機みに、鍵と紐を裏側から蹴ったので、鎧通しが結び目から飛び出して床の上に落ちたのだよ。勿論伸子は、発作が鎮まると同時に、深い昏睡に落ちていったのだがね」と検事の毒々しい軽蔑を見返したが、法水は突然悲痛な表情を泛べて、

「だがしかしだ。伸子はどうして、あの鎧通しを握ったのだろうか。また、あの奇矯変態の極致ともいう倍音演奏が、何故に起されたものだろうか。ああいう想像の限外には、まだ指一本さえ触れることが出来ないのだ」といったんは弱々しげな嘆息を発したけれども、その困憊げな表情が三たび変って、終に彼は颯爽たる凱歌を上げた。「いや、僕は天狼星の視差を計算しているのだっけ。またδもあればξもある! それ等を、一点に帰納し綜合し去ることが出来ればいいのだ」

そこで、空気が異様に熱してきた。もはや解決に近いことは、永らく法水に接している二人にとると、それが感覚的にも触れてくるものらしい。