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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
猶太人がよく、その形をカフス釦や襟布止めに用いているけれども、そのダビデの楯(正三角形と逆正三角形が組み合わさった六芒星)の六稜形が、クリヴォフの胸飾では、テュードル薔薇に六弁の形となって現われているのだ」
「だが、君の論旨はすこぶる曖昧だな」と検事は不承げな顔で異議を唱えた。「なるほど、珍しい昆虫の標本を見ているような気はするが、しかし、クリヴォフ個人の実体的要素には少しも触れていない。僕は君の口から、あの女の心動を聴き呼吸の香りを嗅ぎたいのだよ」
「それが、樺の森(グスタフ・ファルケの詩)さ」と法水は無雑作に云い放って、いつか三人の異国人の前で吐いた奇言を、ここでもまた軽業的に弄ぼうとする。「ところで、最初にあの黙示図を憶い出してもらいたいのだ。知ってのとおりクリヴォフ夫人は、布片で両眼を覆われている。そこで、あの図を僕の主張どおりに、特異体質の図解だと解釈すれば、結局あれに描かれている屍様が、クリヴォフ夫人の最も陥りやすいものであるに相違ないのだ。ところが支倉君、眼を覆われて斃される――それが脊髄癆なんだよ。しかも、第一期の比較的目立たない徴候が、十数年にわたって継続する場合がある。