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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

外部から放たれているものでないことは、とうに明らかなんだし、燐の臭気はないし、ラジウム化合物なら皮膚に壊疽が出来るし、着衣にもそんな跡はない。まさしく皮膚から放たれているんだ。そして、この光には熱も匂いもない。いわゆる冷光なんだよ」

「すると、これでも毒殺と云えるのか?」と検事が法水に云うのを、熊城が受けて、

「ウン、血の色や屍斑を見れば判るぜ。明白な青酸中毒なんだ。だが法水君、この奇妙な文身のような創紋はどうして作られたのだろうか? これこそ、奇を嗜み変異に耽溺する、君の領域じゃないか」と剛愎な彼に似げない自嘲めいた笑を洩らすのだった。

実に、怪奇な栄光に続いて、法水を瞠目せしめた死体現象がもう一つあったのだ。ダンネベルグ夫人が横たわっている寝台は、帷幕のすぐ内側にあって、それは、松毬形の頂花を頭飾にし、その柱の上に、レースの天蓋をつけた路易朝風の桃花木作りだった。死体は、そのほとんど右はずれに俯臥の姿勢で横たわり、右手は、背の方へ捻じ曲げたように甲を臀の上に置き、左手は寝台から垂れ下っていた。銀色の髪毛を無雑作に束ねて、黒い綾織の一重服を纏い、鼻先が上唇まで垂れ下って猶太式の人相をしているこの婦人は、顔をSの字なりに引ん歪め、実に滑稽な顔をして死んでいた。