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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

そして、この室の窓に、おどろと漂い寄って来たものがあったのだ。いいかね支倉君、それがこの事件の悪魔学なんだぜ。病的な、しかもこれほど公式的な符号が、事実偶然にそろうものだろうか」

その一事は、かつて検事が、疑問一覧表の中に加えたほどで、磅と本体を隔てている捕捉し難い霧のようなものだった。しかし、こう法水から明らさまに指摘されてしまうと、この事件の犯罪現象よりも、その中に陰々とした姿で浮動している瘴気のようなものの方に、より以上慄然とくるものを覚えるのだった。が、その時扉が開いて、私服に護衛されたセレナ夫人とレヴェズ氏が入って来た。ところが、入りしなに三人の沈鬱な様子を一瞥したとみえて、あの見たところ温和そうなセレナ夫人が、碌々に挨拶も返さず、石卓の上に荒々しい片手突きをして云った。

「ああ、相も変らず高雅な団欒でございますことね。法水さん、貴方はあの兇悪な人形使いを――津多子さんをお調べになりまして」

「なに、押鐘津多子を※(感嘆符疑問符、1-8-78)」それには、法水もさすがに驚かされたらしかった。「すると、貴方がたを殺すとでも云いましたかな。いや、事実あの方には、とうてい打ち壊すことの出来ない障壁があるのです」