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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

それに、レヴェズ氏が割って入った。そして、相変らず揉み手をしながら、阿るような鈍い柔らか味のある調子で云った。

「ですが法水さん、その障壁と云うのが、儂どもには心理的に築かれておりますのでな。お聴き及びでしょうが、あのかたは、御夫君もあり自邸もあるにかかわらず、約一月ほどまえから、この館に滞在しておるのです。だいたい理由もないのに、御自分の住居を離れて、何のために……いや、まったく子供っぽい想像ですが」

それを法水は押冠せるように、「いや、その子供なんですよ。だいたい人生の中で、子供ほど作虐的なものはないでしょうからな」と突き刺すような皮肉をレヴェズ氏に送ってから、「時にレヴェズさん、いつぞや――確かそこにあるは薔薇なり、その附近には鳥の声は絶えて響かず――と、レナウの『秋の心』のことを訊ねましたっけね。ハハハハハ、御記憶ですか。しかし、僕は一言注意しておきますが、この次こそ、貴方が殺される番になりますよ」となんとなく予言めいた、またそこに、法水独特の反語逆説が潜んでいるようにも思われる、妙に薄気味悪い言葉を吐いた。すると、その瞬間レヴェズ氏に、衝動的な苦悶の色が泛び上ったが、ゴクリと唾を嚥み込むと、顔色を旧どおりに恢復して云い返した。