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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

以上の調査を私服から聴き終ると、法水はひどく複雑な表情を泛べ、実にこの日三度目の奇説を吐いた。

「ねえ支倉君、僕にはレヴェズの壮烈な姿が、絶えず執拗っこくつき纏っているのだがね。あの男の心理は、実に錯雑をきわめているのだ。あるいは誰かを庇おうとしての騎士的精神かもしれないし、またああいう深刻な精神葛藤が、すでにもう、あの男に狂人の境界を跨がせているのかも判らない。だが、なにより濃厚なのは、あの男が死体運搬車に乗っている姿なんだよ」となんら変哲もないレヴェズの言動に異様な解釈を述べ、それから噴泉の群像に眼がゆくと、彼は慌てて出しかけた莨を引っ込めた。「では、これから驚駭噴泉を調べることにしよう。恐らく犯人であると云う意味でなしに、今日の事件の主役は、きっとレヴェズに違いないのだ」

その驚駭噴泉の頂上は、黄銅製のパルナス群像になっていて、水盤の四方に踏み石があり、それに足をかけると、像の頭上からそれぞれの側に、四条の水が高く放出される仕掛になっていた。そして、その放水が、約十秒ほどの間継続することも判明した。ところが、その踏み石の上には、霜溶けの泥が明瞭な靴跡となって残っていて、それによるとレヴェズ氏は、その一つ一つを複雑な経路で辿って行って、しかもそれぞれに、ただの一度しか踏んでいないことが明らかになった。