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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
そこでちょっと言葉を切って、まじまじと相手を瞶めていたが、「それが判れば、僕の説に恐らく異議はないと思うね。ところで、この創は巧妙に表皮のみを切り割っている。それは、血清だけが滲み出ているのを見ても、明白な事実なんだが、通例生体にされた場合だと、皮下に溢血が起って創の両側が腫起してこなければならない――いかにも、この創口にはその歴然としたものがあるのだ。ところが、剥がれた割れ口を見ると、それに痂皮が出来ていない。まるで透明な雁皮としか思われないだろう。が、この方は明らかな死体現象なんだよ。しかしそうなると、その二つの現象が大変な矛盾をひき起してしまって、創がつけられた時の生理状態に、てんで説明がつかなくなってしまうだろう。だから、その結論の持って行き場は、爪や表皮がどういう時期に死んでしまうものか、考えればいい訳じゃないか」
法水の精密な観察が、かえって創紋の謎を深めた感があったので、その新しい戦慄のために、検事の声は全く均衡を失っていた。
「万事剖見を待つとしてだ。それにしても、屍光のような超自然現象を起しただけで飽き足らずに、その上降矢木の烙印を押すなんて……。