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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

そして、そのズタズタに寸断したものにさらに火をつけて、またその灰を粉々にして、それをとうとう、窓から雨の中に投げ捨ててしまいました。その周到をきわめた、いかにも再現されるのを懼れるような行為を見ても、その内容が疑いもなく、異常に熾烈な秘密だったに相違ありません。そして、残った一葉を厳封して、それを金庫の中に蔵め、死後一年目に開くよう儂に申し渡されました。ですから、あの金庫は、まだ開く時機が到来していないのですよ。法水さん、儂にはどうしても、故人の意志を欺くことが出来んのです。しかしつまるところ法律と云うものは、痴呆の羽風にすぎんのでしょう。どんなに秘密っぽい輪奐の美があろうとも、あの無作法な風は、けっして容赦せんでしょうからな。よろしい、儂は貴方がたが為されるままに、いつまででも傍観しとりましょう」と博士は勝ち誇ったように云い放ったが、先刻から絶えず泛んでは消えていた不安の色が、いきなり顔面一杯に拡がってきて、

「だが、貴方の云われた一言は、聴き捨てになりませんぞ。いいですかな、作成した当夜は厳重な監視で護られていた――そして、先主は焼き捨てた残りの一葉を金庫に蔵めて――その文字合せの符号も鍵も」