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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

僕はそこで、ズキンと神経に衝き上げてくるものを感じたのです。何故なら、公教でも猶太教でも、乳香にはボスウェリア種とテュリフェラの二種しかないからで、勿論混種の香料は宗儀上許されていないからです。つまり、薔薇乳香という一言は、貴方の心中、奥深くに潜んでいるものがあって、その有機的な影響に、違いないと結論するに至りました。明らかにその一語は、何か一つの真実を物語ろうとしています。しかし、それが何であるかは、つい今しがた伸子の留守中を狙って、あの室を再び調査するまでは知る術もありませんでした」と法水はおもむろに莨に火を点け、一息吸うと続けた。

「ところでレヴェズさん、あの室の書室の中には、両側に書棚が並んでいましたね。そして、伸子が蹌踉いて花瓶に打衝けたと云う『聖ウルスラ記』は、入口のすぐ脇にある、書棚の上段にあったのです。しかし、その書物は、それがため重心を失うと云うほどの重量ではありません。問題はかえって、それと隣り合っている、ハンス・シェーンスペルガーの『予言の薫烟』にあったのですよ。それを発見して僕は、その偶然の的中に、思わず薄気味悪さを覚えたほどでした。