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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

(註)紀元後四九三年三月、西羅馬の摂政オドワカルは、東ゴートの王テオドリッヒとの戦いに敗れて、ラヴェンナの城に籠城し、ついに和を乞うた。その和約の席上で、テオドリッヒは家臣に命じ、ハイデクルッグの弓でオドワカルを狙わせたのであったが、弦が緩んでいて、目的を果せず、やむなく剣をもって刺殺したのだった。

「しかし、あの虹の告げ口だけは、どうすることも出来ません」と法水はさらに急追を休めず、凄気を双眼に泛べて云い放った。「しかし、貴方がオドワカル殺しの故智を学ばれたのは、さすがだったと思います、御承知でしょうが、テオドリッヒの用いた弓の弦と云うのは、木の繊維で編んだ、ハイデクルッグ王(北独逸ゲルマン族の一族長)からの、虜獲品だったのですからね。ところが、その木という植物繊維には、温度によって組織が伸縮するという特性があるのです。したがって、寒冷の北独逸から温暖の中部伊太利に来たために、さしも北方蛮族の殺人具も、たちまちその怖るべき性能を失ってしまったのでした。ですから、あの火術弩の弦を見た時に、僕は、異様な予感に唆られました。そして、その木の伸縮を、あるいは人工的にも作り得るのではないかと思いました。