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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
勿論、その力が射手のようになって、弓を絞りはじめたことは云うまでもありません。すると、それにつれて、他の収縮しない二本との撚り目がほぐれてゆくので、それが拡がるだけ、弩の位置が下ってゆく訳でしょう。ですから、そうして落下してゆくごとに、余計反動の強い上方の撚り目が釘から外れるでしょうから、そこで、弩の上方が開き、またそれにつれて、胴木の発射把手の部分も横倒しになるので、把手が釘で押され、箭はそのまま開いたとおりの角度で発射されたのでしたよ。そして、発射の反動で、弩は床の上に落ちたのですが、収縮した弦は、蒸発しきると同時に旧どおりになったことは云うまでもありますまい。しかしレヴェズさん、元来その詭計の目的と云うのは、必ずしも、クリヴォフ夫人の生命を奪うのにはなかったのです。ただ単に、貴方の不在証明をいっそう強固にすればいいのでしたからね」
火術弩の仕掛けの図
その間レヴェズは、タラタラと膏汗を流し、野獣のような血走った眼をして、法水の長広舌に乗ずる隙もあらばと狙っていたが、ついにその整然たる理論に圧せられてしまった。しかし、そうした絶望が彼を駆り立てて、レヴェズは立ち上ると胸を拳で叩き、凄惨な形相をして、哮りはじめた。