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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
それゆえ、一見無軌道のように見えても、さて蓋が明けられると、それが有力な連字符ともなり、あるいは、事件の前途に、全然未知の輝かしい光が投射される場合が多いのであった。
そこへ、壁に手を支えながら、津多子夫人が現われた。彼女は大正の中期――ことにメーテルリンクの象徴悲劇などで名を謳われただけあって、四十を一、二越えていても、その情操の豊かさは、青磁色の眼隈に、肌を包んでいる陶器のような光に、かつて舞台におけるメリザンドの面影が髣髴となるのであった。しかも、夫押鐘博士との精神生活が、彼女に諦観的な深さを加えたことも勿論であろう。しかし、法水はこの典雅な婦人に対して、劈頭から些かも仮借せず、峻烈な態度に出た。
「ところで、最初からこんなことを申し上げるのは、勿論無躾至極な話でしょう。しかし、この館の人達の言を借りると、貴女のことを人形使いと呼ばなければならないのですよ。ところが、その人形と糸ですが、事件の劈頭には、それがテレーズの人形にありました。そして、またその悪の源は、永生輪廻の形で繰り返されていったのです。ですから夫人、僕には、貴女に当時の状況をお訊ねして、相変らず鬼談的な運命論を伺う必要はないのですよ」