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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

「支倉君、君は外から文字盤を廻して、この符表どおりに扉を閉めてくれ給え」

すると、検事の手によって文字盤が廻転してゆくにつれて、廻転琴の筒が廻りはじめた。そして、右転から左転に移る所には、その切り返しが他の棘に引っ掛って、三回の操作が、そうして見事に記録されたのである。それが終ると、法水はその筒に、旧どおり報時装置の引っ掛けを連続させた。それが、ちょうど八時に二十秒ほど前であった。機械部に連なった廻転筒は、ジイッと弾条の響を立てて、今行ったとは反対の方向に廻りはじめる。その時固唾を嚥んで見守っていた一同の眼に、明らかな駭きの色が現われた。何故なら、その廻転につれて、文字盤が、左転右転を鮮かに繰り返してゆくではないか。そうしているうちに、ジジイッと、機械部の弾条が物懶げな音を立てると同時に、塔上の童子人形が右手を振り上げた。そして、カアンと鐘に撞木が当る、とその時まさしく扉の方角で、秒刻の音に入り混ざって明瞭と聴き取れたものがあった。ああ、再び扉が開かれたのだった。一同はフウと溜めていた息を吐き出したが、熊城は舌なめずりをして、法水の側に歩み寄った。