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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
その円筒の理論を、オルガン管にさえ移せばいいのだよ。何故なら、両端が開いている管の一端が閉じられると、そこに一音階上の音が、発せられるからなんだ。しかし、それ以前に犯人は、鐘楼の廻廊にも現われていた。そして、風精の紙片を貼り付けた――三つあるうちの中央の扉を、秘そりと閉めたのだったよ。何故なら支倉君、君はレイリー卿が、この世には生物の棲めない音響の世界がある――と云った言葉を知っているかね」
「なに、生物の棲めない音響の世界※(感嘆符疑問符、1-8-78)」と検事は眼を円くして叫んだ。
「そうなんだ。それが、実に凄愴をきわめた光景なんだよ。つまり僕は、鐘鳴器特有の唸りの世界を指して云うのだ」と法水は、押し迫るような不気味な声音で云った。「そうすると、自然問題が、中央の扉を何故閉めなければならなかったかという点に起ってくる。しかし、その扉のある一帯が楕円形の壁面をなしていて、それには、音響学上凹面鏡に似た性能を含んでいるからなんだ。つまり、いわゆる死点とは反対に、鐘鳴器特有の唸りを一点に集注する――。言葉を換えて云うと、その壁面と云うのが、鍵盤の前にいる伸子の耳を焦点とする位置にあったからなんだよ。