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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

「薬物室もか」今度は検事が驚いたように云った。「だいたい青酸加里なんて、小学生の昆蟲採集箱の中にもあるものだぜ」

法水は関わず立ち上って扉の方へ歩みながら、

「それがね、犯人の智能検査なんだよ。つまり、その計画の深さを計るものが、鍵の紛失した薬物室に残されているように思われるんだ」

テレーズ人形のある室は、大階段の後方に当る位置で、間に廊下を一つ置き、ちょうど「腑分図」の真後にあたる、袋廊下の突当りだった。扉の前に来ると、法水は不審な顔をして、眼前の浮彫を瞶めだした。

「この扉のは、ヘロデ王ベテレヘム嬰児虐殺之図と云うのだがね。これと、死体のある室の、傴僂治療之図の二枚は、有名なオットー三世福音書の中にある插画なんだよ。そうなると、そこに何か脈絡でもあるのかな」と小首を傾げながら、試みに扉を押したが、それは微動さえもしなかった。

「尻込みすることはない。こうなれば、叩き破るまでのことさ」熊城が野生的な声を出すと、法水は急に遮り止めて、

「浮彫を見たので、急に勿体なくなったよ。それに、響で跡を消すといかんから、下の方の板をそっと切り破ろうじゃないか」

やがて、扉の下方に空けられた四角の穴から潜り込むと、法水は懐中電燈を点じた。