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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
ですから法水さん、私がもしデイシャス(沙翁の「ジュリアス・シーザー」の中でブルタスの一味)でしたら、さしずめこの場合は、羽織の環にこう申すところでしょうよ。一角獣は樹によって欺かれ、熊は鏡により、象は穴によって――と」
そこで、とりあえず開閉器の内部を調べることになった。ところがその結果は予期に反して、それには電障の形跡がないばかりでなく、把手を捻って電流を通じても、大装飾灯は依然闇の中で黙したままである。実に、それが紛糾混乱の始まりとなって、ついに問題は礼拝堂を離れてしまった。法水も、本開閉器の所在を津多子に訊す前に、なにより彼の早断を詫びなければならなかった。津多子は気勢を収めて、率直に答えた。
「その室は、礼拝堂から廊下一重の向うにございまして、以前は殯室(中世貴族の城館で、塗油式を行う前に屍体を置く室)だったのでございます。しかし、現在では改装されておりまして、雑具を置く室になっておりますが」
ところが、広間を横切って廊下を歩んで行くにつれて、水流の轟きはいよいよ近くに迫ってくる。そして、目指す殯室の手前まで来ると、その――耶蘇大苦難に、聖パトリック十字架のついた扉の彼方から、おどろと落ち込んでいる水音が湧き上ってきた。