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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
像面からうける感じは、愛くるしいと云うよりも、むしろ異端的な美しさだった。半月形をしたルーベンス眉や、唇の両端が釣り上ったいわゆる覆舟口などと云うのは、元来淫らな形とされている。けれども、妙にこの像面では鼻の円みと調和していて、それが、蕩け去るような処女の憧憬を現わしていた。そして、精緻な輪廓に包まれ、捲毛の金髪を垂れているのが、トレヴィーユ荘の佳人テレーズ・シニヨレの精確な複製だったのである。光をうけた方の面は、今にも血管が透き通ってでも見えそうな、いかにも生々しい輝きであったが、巨人のような体躯との不調和はどうであろうか。安定を保つために、肩から下が恐ろしく大きく作られていて、足蹠のごときは、普通人の約三倍もあろうと思われる広さだった。法水は考証気味な視線を休めずに、
「まるで騎士埴輪か鉄の処女としか思われんね、これがコペツキーの作品だと云うそうだが、さあプラーグと云うよりも、体躯の線は、バーデンバーデンのハンスヴルスト(独逸の操人形)に近いね。この簡素な線には、他の人形には求められない無量の神秘がある。算哲博士が本格的な人形師に頼まないで、これを大きな操人形に作ったのは、いかにもあの人らしい趣味だと思うよ」