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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

法水はそれによって、いっさいを知ることが出来たのである。聖パウロ、殉教者イグナチウス、コルドバの老証道人ホシウス……と壁面の彫像柱を、三つまでは数えたが、その声に俄然顫えが加わってきて、

「墓※だよ、とうとう僕等は算哲の墓※にやって来てしまったんだ」と狂わしげに叫んだ。

その声と同時に、熊城は二、三歩進んでいって、円い灯で前方を一の字に掃いた。すると、その中に幾つか石棺の姿が明滅して、明らかにこの一劃が、算哲の墓※に相違ないことが分った。三人は切れ切れに音高い呼吸を始めた。いつぞやレヴェズが法水に云った、地精よ、いそしめ――の解釈が、今や幻から現実に移されようとしている。しかも、スリッパの跡は、中央にあってひときわ巨大な、算哲の棺台を目がけて、一文字に続いているのだ。その蓋には、軽鉄で作られた守護神聖ゲオルヒが横たわっていて、それは軽く擡げられた。恐らく、その時三人の心中には……算哲の棺台のみに脚がなくて、それが大理石の石積で作られていることから、たしか棺中にはファウスト博士の姿はなくて、そこからまた、地下に続く新しい坑道が設けられているように思われていた。