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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

美しい近衛胸甲騎兵の行進ではなくて、あの無分別者ぞろいの、短上衣をはだけて胸毛を露き出して、ぷんぷん鹿が落した血の跡を嗅ぎ廻るといった、黒色猟兵だったのです。いやきっと、あいつは人肉が嗜きなんでしょうよ」

そうして、追及される伸子の体位は、明らかに不利だった。その残忍な宣告が、永遠に彼女を縛りつけてしまったかと思われたが、法水はちょっと熱のあるような眼を向けて、

「いや、たしかそれに、人肉ではなく魚だったはずですがね。しかし、その不思議な魚が近づいて来たために、かえってクリヴォフ夫人は、貴女がたの想像とは反対の方向に退軍を開始したのでしたよ」と相変らず芝居げたっぷりな態度だったけれども、一挙にそれが、伸子と二人の地位を転倒してしまった。

「ところで、装飾灯が消えるほんの直前でしたが、その時たしか伸子さんは、全絃にわたってグリッサンドを弾いておられましたね。すると、その直後灯が消された瞬間に、思わず機みを喰って、全部のペダルを踏みしめてしまったのです。実は、その際に起った唸りが、ちょうど踏んでいったペダルの順序どおりに起ったものですから、それが、迫って来る気動のように聞えたのですよ。