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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

ところが、その翌日の午後になると、伸子の打札がヒュッと風を切って飛び来ると思いのほか、意外にも検事と熊城が訪れてきて、当の本人伸子が、拳銃で狙撃され即死を遂げたという旨を告げた。それを聴くと、事件を全然放擲しかねまじい失意を、法水が現わしたばかりでなく、せっかく見出した確証を掴もうとした矢先、その希望が全然截ち切られてしまって、もはやこの事件の刑法的解決は、永遠に望むべくもないのだった。それから三十分後に、法水は暗澹とした顔色を黒死館に現わした。そして、今や眼のあたり伸子の遺骸を見ると、事件の当初から、ファウスト博士の波濤のような魔手に弄ばれ続けて、とどのつまり生命の断崖から、突き落されたこの今様グレートヘンが……、なんとなく死因に対する、法水の道徳的責任を求めているように思われ、はてはそれが、とめどない慚愧と悔恨の情に変ってしまうのだった。ところが、現場伸子の室に一歩踏み入れると、そこには、鮮かにも残された犯人の最後の意志――Kobold sich muhen(地精よいそしめ)が印されていた。

しかもそれは、いつものような紙片にではなく、今度は、伸子の身体に印されていた。