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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
犯人の異常な才智たるや、実に驚くべきものじゃないか」と立ち止って不気味に据えた眼で、あるいは半円を描き、またそれを大きくうねくらせながら、縦の波形に変えたかと思うと、「この終局の素晴らしさ――幕切れに大向を唸らせるファウスト博士の大見得――この意表を絶した総懺悔の形容を見給え。ねえ支倉君、地精・水精・火精――とその頭文字をとって、それに、この事件の解決の表象を加えると、それが Kss(接吻)になってしまうんだ。ああ、たしか広間の煖炉棚の上に、ロダンの『接吻』の模像が置いてあったじゃないか。サア、これから黒死館に行こう。僕は自分の手で、最後の幕の緞帳を下すんだ」
三人が黒死館に着いた時は、ちょうど伸子の葬儀が始まっていた。その日は風が荒く、雪でも含んでいそうな薄墨色の雲が、低く樹林の梢間際にまで垂れ下っていて、それがいつまでも動かなかった。そういった荒涼たる風物の中で、構内は人影も疎らなほどの裏淋しさ、象徴樹の籬が揺れ、枯枝が走りざわめいて、その中から、湧然と捲き起ってくるのが、礼拝堂で行われている、御憐憫の合唱だった。法水は館に入ると、独りで広間の中に入って行ったが、そこで彼の結論が裏書きされたことは、再びダンネベルグ夫人の室で、二人の前に現われた時の顔色で判った。