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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
それにまた、サントニン中毒特有の幻味幻覚などが伴ったので、あれほど致死量をはるかに越えた異臭のある毒物でも、ダンネベルグ夫人は疑わず嚥下してしまったのだよ。けれども、その思い付きというのは、けっして偶然の所産ではない。根本の端緒を云えば、やはり、犯人に課した僕の心理分析にあったのだ。しかし、もう一つ、側面から刺戟してきたものがあって、奇妙なことに、その一つのサントニンが犯人にも影響を与え、その両面を合わせてみると、まるで陰画と陽画のように符合してしまうのだよ。と云うのは、ほかでもない、あの園芸靴の靴跡なんだ。あれは既に、僕の解析から偽造足跡であることが、判明したけれども、その復路の中途で何の意味もなく、当然踏めばよいとしか思われない、枯芝を大きく跨ぎ越えている。ところが、その危く見逃すところだった微細な点――云わば毛ほどのものとも云うものに、実を云うと、犯人の死命を制した一つの盲点があったのだよ。そこに僕は、因果応報の神の魔力を、しっかと捉えることが出来た。この運命悲劇では、犯人がボルジアの助毒として用いた、サントニンによって、終局には自らが斃されなければならなかったのだ。