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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

「ダンネベルグ夫人のお命令でした。あの方の怯えきったお心は、昨夜最後の避難所をここへ求めずにはいられなかったのです」と凄気の罩もった言葉を冒頭にして、鎮子はまず、館の中へ磅と漲ってきた異様な雰囲気を語りはじめた。

「算哲様がお歿くなりになってから、御家族の誰もかもが、落着きを失ってまいりました。それまでは口争い一つしたことのない四人の外人の方も、しだいに言葉数が少なくなって、お互いに警戒するような素振りが日増しに募ってゆきました。そして、今月に入ると、誰方も滅多にお室から出ないようになり、ことにダンネベルグ様の御様子は、ほとんど狂的としか思われません。御信頼なさっている私か易介のほかには、誰にも食事さえ運ばせなくなりました」

「その恐怖の原因に、貴女は何か解釈がおつきですかな。個人的な暗闘ならばともかく、あの四人の方々には、遺産という問題はないはずです」

「原因は判らなくても、あの方々が、御自身の生命に危険を感じておられたことだけは確かでございましょう」

「その空気が、今月に入って酷くなったと云うのは」

「マア、私がスウェーデンボルグかジョン・ウェスレイ(メソジスト教会の創立者)でもあるのでしたら」