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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
それに、外見では判らない癲癇発作がありますからね。けれども、あの時は冴え切ったほどに正確でございました」とキッパリ云い切ってから、「それから、あの方は十一時頃までお寝みになりましたが、お目醒めになると咽喉が乾くと仰言ったので、そのときあの果物皿を、易介が広間から持ってまいったのです」と云って熊城の眼が急性しく動いたのを悟ると、
「ああ、貴方は相変らずの煩瑣派なんですね。その時あの洋橙があったかどうか、お訊ねになりたいのでしょう。けれども、人間の記憶なんて、そうそう貴方がたに便利なものではございませんわ。第一、昨夜は眠らなかったとは思っていますけれども、その側から、仮睡ぐらいはしたぞと囁いているものがあるのです」
「なるほど、これも同じことですよ。館中の人達がそろいもそろって、昨夜は珍しく熟睡したと云っているそうですからね」とさすがに法水も苦笑して、「ところで十一時というと、その時誰か来たそうですが」
「ハァ、旗太郎様と伸子さんとが、御様子を見にお出でになりました。ところが、ダンネベルグ様は、果物は後にして何か飲物が欲しいと仰言るので、易介がレモナーデを持ってまいりました。