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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

それがために、宇宙の極限に達する頃には光速が零となり、そこで進行がピタリと止ってしまうというのですよ。ですから、宇宙の縁に映る像はただ一つで、恐らく実体とは異ならないはずです。そこで僕等は、その二つの理論の中から、黙示図の原理を択ばなければならなくなりました」

「ああ、まるで狂人になるような話じゃないか」熊城はボリボリふけを落しながら呟いた。「サア、そろそろ、天国の蓮台から降りてもらおうか」

法水は熊城の好謔にたまらなく苦笑したが、続いて結論を云った。

「勿論太陽の心霊学から離れて、ジッターの説を人体生理の上に移してみるのです。すると、宇宙の半径を横切って長年月を経過していても、実体と映像が異ならない――その理法が、人間生理のうちで何事を意味しているでしょうか。たとえば、ここに病理的な潜在物があって、それが、発生から生命の終焉に至るまで、生育もしなければ減衰もせず、常に不変な形を保っているものと云えば……」

「と云うと」

「それが特異体質なんです」と法水は昂然と云い放った。「恐らくその中には、心筋質肥大のようなものや、あるいは、硬脳膜矢状縫合癒合がないとも限りません。