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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
と抗弁したが、法水は几帳面に自分の説を述べた。
「なるほど、飄逸や戯喩は、一種の生理的洗滌には違いないがね。しかし、感情の捌け口のない人間にとると、それがまたとない危険なものになってしまうんだ。だいたい、一つの世界一つの観念――しかない人間というものは、興味を与えられると、それに向って偏執的に傾倒してしまって、ひたすら逆の形で感応を求めようとする。その倒錯心理だが――それにもしこの図の本質が映ったとしたら、それが最後となって、観察はたちどころに捻れてしまう。そして、様式から個人の経験の方に移ってしまうんだ。つまり、喜劇から悲劇へなんだよ。で、それからは、気違いみたいに自然淘汰の跡を追いはじめて、冷血的な怖ろしい狩猟の心理しかなくなってしまうのだ。だから支倉君、僕はソーンダイクじゃないがね、マラリヤや黄熱病よりも、雷鳴や闇夜の方が怖ろしいと思うよ」
「マア、犯罪徴候学……」鎮子は相変らずの冷笑主義を発揮して、
「だいたいそんなものは、ただ瞬間の直感にだけ必要なものとばかり思っていましたわ。ところで易介という話ですが、あれはほとんど家族の一員に等しいのですよ。