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こくしかんさつじんじけん

黒死館殺人事件

小栗 虫太郎

「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页

青空文庫

といったん法水は失望したように呟いたが、その口の下から、両眼を輝かせて、「オヤ妙な転換があるぞ。元来この一句は、水精よ蜿くれ――なんですが、これには、女性の Undine に us をつけて、男性に変えてあるのです。しかし、これが何から引いたものであるか、御存じですか。それから、この館の蔵書の中に、グリムの『古代独逸詩歌傑作に就いて』かファイストの『独逸語史料集』でも」

「遺憾ながら、それは存じません。言語学の方は、のちほどお報せすることにいたします」と鎮子は案外率直に答えて、その章句の解釈が法水の口から出るのを待った。しかし、彼は紙片に眼を伏せたままで、容易に口を開こうとはしなかった。その沈黙の間を狙って熊城が云った。

「とにかく、易介がその場所へ行ったについては、もっと重大な意味がありますよ。サァ何もかも包まずに話して下さい。あの男はすでに馬脚を露わしているんですから」

「サァ、それ以外の事実と云えば、たぶんこれでしょう」と鎮子は相変らず皮肉な調子で、「その間私が、この室に一人ぼっちだったというだけの事ですわ。しかし、どうせ疑われるのなら、最初にされた方が……いいえ、たいていの場合が、後で何でもないことになりますからね。