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こくしかんさつじんじけん
黒死館殺人事件
小栗 虫太郎
「新青年」博文館、1934(昭和9)年4月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 296,741 字 · 584 页
ところで、それを鎮子が分らないのを不審に思わないかい。だいたいこういった古風な家で、書架に必ず姿を現わすものと云えば、まず思弁学でヴォルテール、文学ではゲーテだ。ところが、そういった古典文学が、あの女には些細な感興も起さないんだ。それからもう一つ、あの一句には薄気味悪い意思表示が含まれているのだよ」
「それは……」
「第一に、連続殺人の暗示なんだ。犯人は、すでに甲冑武者の位置を変えて、それで殺人を宣言しているが、この方はもっと具体的だ。殺される人間の数とその方法が明らかに語られている。ところで、ファウストの呪文に現われる妖精の数が判ると、それがグイと胸を衝き上げてくるだろう。何故なら、旗太郎をはじめ四人の外人の中で、その一人が犯人だとしたら、殺す数の最大限は、当然四人でなければなるまい。それから、これが殺人方法と関聯していると云うのは、最初に水精を提示しているからだよ。よもや君は、人形の足型を作って敷物の下から現われた、あの異様な水の跡を忘れやしまいね」
「だが、犯人が独逸語を知っている圏内にあるのは、確かだろう。それにこの一句はたいして文献学的なものじゃない」