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こくてん

黒点

豊島 与志雄

――或る青年の「回想記」の一節――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,665 字 · 62 页

青空文庫

或る朝彼女は裏口にやって来て呼んだ。

「みいちゃん……みいちゃん……。」

お三代が立っていくと同時に、私も立っていった。彼女は朝日の光の中にぱっとした身装で、紙風船をふくらましてぽんぽんやっていた。嘗て見たこともない大きな美しい五色のものだった。

「これをあげましょう。」

私は羨ましくなった。

「僕にもおくれよう。」

彼女は私の顔をしげしげ見守っていたが、突然笑い出した。

「ほほほほほ……あんたも玩具がいるの。」

私は喫驚した。何て笑い方だったろう。すっかり面喰ってしまった。

「いるならこんど買ってきてあげるわ。でも……突けて。」

「突けるとも。」

私は妹を押しのけて、紙風船をついた。ぽーんぽーんという素敵な音だった。

それから姉が仕度を済して出て来るまで、私は妹や彼女と風船玉をついて遊んだ。夢中になって汗をぐっしょりかいた。

「何をしてるんだよ、男のくせに。」と姉は私を叱った。

「いいじゃないの。……啓ちゃんも紙風船がほしいんだってよ。」

私は恥しくなった。それから腹が立った。仕返しをしてやれという気になった。

そして、それが却って役立った。

三四日後、午後のこと、裏口に出て、彼女の離室の方を見ると、窓の障子が少し開いていて、中で何かちらちら動いていた。