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こくてん

黒点

豊島 与志雄

――或る青年の「回想記」の一節――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,665 字 · 62 页

青空文庫

私は一度、その前をひそかにうろついて、どうしても中にはいれなかったことがあった。

お清がそこへ出てることは何よりの幸だった。私は彼女に連れていって貰おうときめた。

で或る時私はお清へそのことを頼んでみた。

お清は不思議そうに私の顔を見た。

「姉さんも行ってるじゃないの。どうして姉さんに連れてって貰わないの。」

私は説明するのに顔が真赤になった。詳しくはなかなか云えなかったし簡単には猶更云えなかった。もし相手が寺田さんだったら、胸の欝憤や疑問をそっくりさらけ出したかも知れないが、お清へは何だかそれが出来なかった。で苛ら苛らしながら、いくら頼んでも姉は連れて行ってくれないとだけ答えた。

「そう。でも……。」

彼女はまだ不思議そうに私の顔を見守っていた。私は無理に頼んだ。

「後で叱られやしないの。」

「大丈夫だい。叱られたって平気だよ。僕は意趣返をしてやるんだ。」

「なにを生意気云ってるの。」

だがその時、彼女は眼をちらっと光らした。とそれがすぐにくるくると動いた。

「いいわ。連れてってあげよう。……だけど……。」と彼女は暫く考え込んだ。「こうするといいわ。あたしが連れて行くと怨まれるかも知れないから、時間をきめていらっしゃい。