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こくてん

黒点

豊島 与志雄

――或る青年の「回想記」の一節――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,665 字 · 62 页

青空文庫

私は一度も見たことのないその男に対して、さまざまの空想を逞うしながら、幽鬼にでも対するような恐怖を覚えた。

お清とお新だけが、凡てに無関心に伸び伸びと振舞っていた。大抵連れ立ってカフェーに出かけていった。が気のせいか、お清は次第に醜くなるようだった。

或る朝、顔を洗ったばかりの彼女を見て、私は吃驚した。混血児風の顔立が変に骨立って、唇に黒い皺が寄っていた。それが、日の光のさしてる窓の真中にぽかっと浮出していた。

「何をそんなに見てるの。」

彼女はそう云って弱々しい微笑を洩らした。私は飛んで行きたいのをじっと我慢した。

彼女が醜くなり陰気になるに従って、私は反対にまた彼女に惹きつけられそうだった。初め彼女に惹きつけられたのと逆の気持だった。それを私はぼんやり自分でも感じて、どうしていいか分らなかった。

そのうちに、不意に、全く不意に、最後の事件が持ち上った。

風のない少し暖かな、三月初めの夜中だった。曇っていたのか晴れていたのか、ただ星が二つ三つだけ光ってたことを私は覚えている。

何か大きな音がしたようだった。それを夢現に聞き流してまたうとうとした頃、私はいきなり母から呼び起された。