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くろふねぜんご

黒船前後・志士と経済他十六篇

服部 之総

服部之総『黒船前後・志士と経済他十六篇』。同一底本的分册已合并为一书。收入:黒船前後、志士と経済、空罎、加波山、咸臨丸その他、汽船が太平洋を横断するまで、黒田清隆の方針、黒船来航、新撰組、せいばい、尊攘戦略史、撥陵遠征隊、福沢諭吉、武鑑譜、望郷、蓮月焼、Moods cashey。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 121,901 字 · 247 页

青空文庫

加波山

桜井家の媒酌としてその村に行ってからことし九年ぶりになる。

村は加波山事件の加波山の東麓にあたり、親鸞聖人の旧蹟として名高い板敷山のいただきは北方の村境であり、郡境ともなっている。

九年まえに行ったときは東京で式を済ませて式服のまま自動車を牛久、土浦、石岡、柿岡と、秋晴の野を丘を走らせたから板敷山は越えない。かっきり暮れてから着いた。そしてもいちど村での式を挙げたのである。

仲人の私のまえに五人の老人が、先頭は手ぶらで次は一升徳利を三人めは鯉のいきづくりの鉢を四人めは鶴亀の島台を捧げて、つぎつぎとあらわれては禿げた頭を物堅くさげ、みるみる品物と人々の位置が定まると、手ぶらと思った先頭の老人はいつのまにか二個の丹塗の大椀を手にしており、一つを膝そばに置き一つを捧げて私に差す。この地方の作法について新郎はなにひとつあらかじめ教えてくれてはいなかった。この五人の老人が徳川時代以来の五人組の遺風であるということもあとから教えてくれたのである。

酒は一升徳利からその丹塗の大椀の底にちょっぴり注がれて、五人組総代と私の間の献酬である。やれやれと安心したら今度はもひとつの大椀を取って差出す。