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ねずみざか

鼠坂

森 鴎外

「中央公論」1912(明治45)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,781 字 · 16 页

青空文庫

一同が立ち上がる時、小川の足元は大ぶ怪しかった。

主人が小川に言った。「さっきの話は旧暦の除夜だったと君は云ったから、丁度今日が七回忌だ。」

小川は黙って主人の顔を見た。そして女中の跡に附いて、平山と並んで梯子を登った。

二階は西洋まがいの構造になっていて、小さい部屋が幾つも並んでいる。大勢の客を留める計画をして建てた家と見える。廊下には暗い電燈が附いている。女中が平山に、「あなたはこちらで」と一つの戸を指さした。

戸の撮みに手を掛けて、「さようなら」と云った平山の声が小川にはひどく不愛相に聞えた。

女中はずんずん先へ立って行く。

「まだ先かい」と小川が云った。

「ええ。あちらの方に煖炉が焚いてございます。」こう云って、女中は廊下の行き留まりの戸まで連れて行った。

小川は戸を開けて這入った。瓦斯煖炉が焚いて、電燈が附けてある。本当の西洋間ではない。小川は国で這入っていた中学の寄宿舎のようだと思った。壁に沿うて棚を吊ったように寝床が出来ている。その下は押入れになっている。煖炉があるのに、枕元に真鍮の火鉢を置いて、湯沸かしが掛けてある。その傍に九谷焼の煎茶道具が置いてある。