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ジ アフェア オブ トゥー ウォッチイズ

The Affair of Two Watches

谷崎 潤一郎

「新思潮」1910(明治43)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,107 字 · 27 页

青空文庫

而も其れ等が皆バイブルや論語の格言以上の価値と権威とを有するように思われ、発見の度毎に独りで感服したが、次ぎの発見に移る時分には大概前の真理を忘れて居た。何でも其の中には、「笑は不安也。」と云うのがあったと思った。「鼻は猥褻也。」もあったようだ。「自ら誇る時、心毎に悲し。」「黙する時、必ずしも考えず。」こんなものもあった。「色彩を欲す、思想を欲せず。」「恐怖は其の対象の生ずるを待って生ぜず。」「長く黙するに堪えず。」「巻煙草は婬売を聯想せしむ。」記憶えて居るのは此の位だが、まだ此の外に素晴らしい発見が十や二十はあった筈だ。惜しい事をしちゃった。

矢張真理は抗えんもので、四丁目から電車へ乗って足の方が楽になると、私は今にも往来へ躍び出して駈け出したくなるような恐怖に襲われ出した。Terror of Death! Terror of Death! 始終耳元でこんな叫びが聞え、動悸が鉄槌を打ち込むようにガンガン響いた。かと思うと、アワヤ心臓の血が一時に凝結するような気がして、一生懸命肋骨を抑えた。私を乗せた夜更けの電車が非常な活力で轟々と走って行くのが、如何にも情なく、意地悪く感ぜられた。