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ジ アフェア オブ トゥー ウォッチイズ
The Affair of Two Watches
谷崎 潤一郎
「新思潮」1910(明治43)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,107 字 · 27 页
」
と、杉は顔で憤慨したが、其の実足許は危かった。
「いやそうでない。インキとノートの金位家へ行けば出来るから今一寸立て換えてくれ。早速教場へ出られんじゃ困る。大丈夫だよ。一寸買って来る。」
委細構わず原田が戸外へ駈出すと、何と思ったか杉が後から、
「おい、原田ア。」と呼び止めて、
「序に菓子を五銭買って来い。」
もう斯うなると百圓は金額が大きいだけそれだけ、遥か遠くへ隔たった感がある。
原田の買って来た甘辛煎餅をばり/\やりながら、運動場の芝生に臥転んで、杉が真面目にこんな事を云い出した。
「だが能く考えて見ると、此の計畫は明かに人に聞かれて好ましい事じゃない。何と云っても丸善とそれから僕等から本を買い取った人を欺く事になるんだからな。たかが授業料三十圓の為めにそんな不徳を働かんでもすむじゃないか。」
如何にも他人の不都合を詰るような口調で、原田と私を睨めつけながら、自分の企てた計畫を堂々と攻撃した揚句、とうとう滅茶苦茶にして了った。
「それよりは此の三圓で愉快に遊ぼう。そして今夜は妙法寺へ来て泊るさ。面白いぜ、それも。」
妙法寺と云うのは杉の間借りをして居る牛込原町のお寺だ。