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ジ アフェア オブ トゥー ウォッチイズ
The Affair of Two Watches
谷崎 潤一郎
「新思潮」1910(明治43)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,107 字 · 27 页
唯一つ勉強と云う事だけが共通でなかった。それは勉強なるものが決してスクール・ライフの中の主なる出来事ではなかったからだ。
一と先ず千駄木の原田の下宿に落ち付く事になって、駒込の方へ歩き出した。もう好い加減戸外を歩いて居る事は忘れて、往来の端から端へ転がりながら砂埃を蹴って笑って行く。其の度毎に杉は子供のように意気地なく鼻をすゝり、袂からボロボロの紙屑を撰り出しては鼻をかんだ。私は下駄の鼻緒が今にも切れそうなので、可なり其の方も心配になった。
「間室は暗い顔をして居るなあ。もうちっと日当りの好い顔になれないもんかな。」
一町も先からやって来る友達の顔に狙いをつけて、突然杉がこんな事を云い出した。
「ありゃ可かんぜエ君、ありゃ一生女に惚れられん顔じゃ。あゝ云う顔を持った男はもう浮ぶ瀬がない。」
顔の事になると、原田は他人より一倍眼が肥えてると云った風に批評するのが癖で、結局惚れるとか惚れられないとか、話を色気の方へ持って行って決着を付ける。
「………時に山崎さん。君、若竹へ出て居る名古屋藝者を見たかな。」
山崎は私の名だ。
「うむ、見た。」
「あン中に一人居るだろうがな。