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ジ アフェア オブ トゥー ウォッチイズ
The Affair of Two Watches
谷崎 潤一郎
「新思潮」1910(明治43)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,107 字 · 27 页
彼りゃあ好え。粋な顔をしとる。杉さんはどう思う。」
何か真面目の用件らしく、キッと杉を見つめる。
「あれがかい? 眼のキリ/\吊るし上った、パサ/\した女だろ?」
「ふむ、そうだろうよ。そう云うだろうと思った。あれは君、散々道楽をし抜いて、女に飽いた男が好くんじゃ。あの女の糞なら甞めるがナ私ゃ。」
「其れだけは止して呉れ。穢いから。」
杉は仰山に顔を顰めて見せる。
「糞を甞めるは好かった。僕は賛成だ。」
何でも一風変った事だと私はイコジになって賛成するのだ。
「いや、どうも君達には驚く。何も糞を甞めて見せなくっても好さそうなものだ。」
こう一番呆れ返ったような表情を見せて置いて、杉は又言葉を続ける。
「驚くと云えば近頃僕の頭の悪いには実に驚く。此の間電車へ乗って不思議な事を考えた。毎朝五銭の往復切符で割引の電車へ乗り、復りの方を誰かに安く三銭で売るとするんだね。すると最初の日は五銭で買って三銭で売るから、差引二銭の損になるが、二日目から其の売った三銭へ二銭足して割引へ乗り、又復りを三銭で売る。今度は二銭出して三銭入るから一銭儲かる訳だ。次の日も同じように其の三銭へ二銭足しては電車に乗って復りを三銭で売る。